東洋の植民地

「僕は東洋の植民地に永く勤務してゐたので、東洋人の骨格はちやんとわかる。支那人、日本人、安南人、みんなちがつてゐる」「なるほど。それで、僕の骨格が支那人だといふんだね」「疑ひの余地なし」 折角さう信じてゐるものを、証拠まで見せて失望させるにも当らないと思つたが、僕はカバンの裏に張つてある日本大使館のマアクを指して、組んだ脚の爪先を動かしてゐてやつた。然し、僕は、内心、ひよつとすると、先祖に帰化人があるんではないかと思つた。 序だが、ある女から「お前は支那人か」といはれ、味気なくなつて、そのまま帰つて来た日本人がある。同じ女が、別の機会にそれとよく似た男をつかまへ、今度は「お前は日本人だらう」といつて見た。するとその男は、こぶしを固めて、女の下つ腹を突いたさうだ。 話がわき道にそれたが―― その、どこからともなく現はれて、僕のそばへ寄つて来た男に、「君は支那人でせう」と訊かれ、平然と僕は答へた。「さうだ」「僕は貴国の聖人を知つてゐます」「孔子《コンフシウス》だらう」「さやう」と、この男は、眼をギヨロリと光らした。「貴国の方は、それにみんな詩人ださうですね」「さうでもない」「僕は、貴国の留学生を二三人識つてゐます。名前は忘れたが、いづれも極めて愛すべき人達でした」 やや生硬なフランス語だが、なか/\達者だ。こつちが黙つてゐるので、

— posted by id at 04:39 pm  

T: Y: ALL: Online:
Created in 0.1656 sec.

http://best-cars-online.org/