急ぎ給え

[#5字下げ]四 急ぎ給え[#「四 急ぎ給え」は中見出し]

 カルタゴの市民が、真に挙国一致の精神に燃立ち、その態勢をととのえ、実行に移った時には…… ――老幼男女の別なく、昼夜休まず神廟内、その他、手広い建物の内に集まり、俄《にわか》に兵器の製造に着手し、日|毎《ごと》に、楯百四十箇、刀剣三百振、鎗五百筋、矢一千本ずつを作り、同時に、無数の投石機をつくり、尚《なお》、婦女は頭髪を切って弓弦とし、又、あらゆる方面の、鉄を採集し、刀鎗の原料とし、奴隷を解放して兵役に服せしめたり―― と、いう状態にまで立至った。 しかし、もう、この時には、手遅れであった。ローマの大軍が、城壁十里の地点にまで逼《せま》っていたのであった。 しかし、尚、その決死態勢があったため、カルタゴは、その後、相当長い間、独立を保っていた。 カルタゴとローマとの戦闘は二十数年間行われた。その間にカルタゴには、シーザーやナポレオンが、兵術の祖として、その兵術を学んだ、曠古の名将にして、しかも、大政治家、加うるに、尽忠報国、至誠そのものの如き、真人間のハンニバルが出て、国力を恢復しようとした。しかし、ハンニバルは、貴族、富豪、特権階級の集まりであるところの、最高政治機関の元老院、及びそれに追随するある衆愚の排撃によって、故国を去り、流離の後に自殺した。 こうしてローマによって突付けられた講和条件なるものは、(一)兵器一切をローマに引渡すべし。(二)カルタゴ市民は、海岸より十二|哩《マイル》後方に移転すべし(カルタゴは、地中海を生命とした海運国なのである) というのであった。 これはカルタゴに執《と》っては、滅亡しろ、ということに他ならないのである。

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